ゲーミングPCの静音化設定について、テンプレート化を目指し記事を残していきます。
今回はBIOSでのCPU電力制限設定を紹介し、実際の設定箇所や制限値の設定方法について記しています。
CPUの電力制限とは
電力制限を行うメリット

マザーボードに搭載されたBIOSが、CPUへ供給する最大電力を決定しています。
BIOSでの電力制限により供給する最大電力を低下させると、CPUの温度低下が見込めるほか、クロック数に制御がかかることで安定性が向上することがあります。
CPU温度の管理ができる
CPUの消費電力が低下する分、その発熱も抑えられます。
特にノートPC・ミニPC・ファンレスPCなど、ハード側で冷却性能を拡張しづらいときに電力制限の設定は効果的だと思います。
デスクトップPCを自作する際も、「この空冷クーラーで冷却できるように電力制限する」とあらかじめ割り切ってしまうことで、節約したCPUクーラー代を別のパーツに回すことができます。

マザーボード・CPU・グラフィックボードやメインストレージなど、後から交換するのが面倒な(高額になる)ものに予算を充てるのもありではないでしょうか。
安定性が向上する
他の影響で動作が不安定になる前に、電力制限による制御がかかる場合があるというメリットです。
電力無制限の状態だと、その他の機能やバグのせいで、クロック数を上げようとしてブルースクリーンを引き起こしたり、過度の電圧がCPU内回路を劣化させるといった事例がありました。

不具合の発覚後、機能やバグの修正とともに「電力供給を推奨値で設定する」という緩和策が広まった形です。
電力無制限の状態で使用するメリットも特にないため、あらかじめ電力制限を設定しましょう。
電力制限を行うデメリット
CPUに供給する電力を現状以下に制限すると、処理性能が低下します。
しかしこれも、細かく設定できるうえ元に戻すのが簡単なので、ご自分が納得できる設定をすればよいと言いますか…これが電力制限のデメリット!とは言いづらいところです。
処理性能の低下例(私のPC:Intel 12600K)
私のPCでのテスト例を記します。
▶数値を表で見る(押すと展開します)
設定値 | 消費電力 | マルチコア | マルチコア% | シングルコア | シングルコア% | 温度 |
---|---|---|---|---|---|---|
241(Auto) | 103 | 16850 | 100 | 1865 | 100 | 61 |
150 | 102 | 16997 | 100.8724036 | 1880 | 100.8042895 | 64 |
135 | 105 | 17052 | 101.1988131 | 1885 | 101.0723861 | 65 |
120 | 104 | 17100 | 101.4836795 | 1887 | 101.1796247 | 64 |
105 | 103 | 17049 | 101.1810089 | 1885 | 101.0723861 | 63 |
90 | 90 | 16444 | 97.59050445 | 1885 | 101.0723861 | 57 |
75 | 75 | 15090 | 89.55489614 | 1888 | 101.233244 | 51 |
60 | 60 | 13959 | 82.84272997 | 1889 | 101.2868633 | 44 |
45 | 45 | 9420 | 55.90504451 | 1886 | 101.1260054 | 39 |
30 | 30 | 7111 | 42.20178042 | 1837 | 98.49865952 | 37 |
15 | 15 | 3326 | 19.7388724 | 1328 | 71.20643432 | 28 |

まず電力無制限では241Wが指定されていますが、現状の最大消費電力103Wまでは制限設定をしてもスコア・温度に変化があまりありません。
103Wから90Wまでは電力を1割以上削減しているのにも関わらず、スコアの低下は3%ほどです。さらに103Wから75Wまで電力を3割以上削減してもスコアの低下は10%ほど…加えて温度も12℃下がっています。
マルチコアのスコアから、性能の似たCPUを探すと…元々12600Kの性能が90W制限で11900K、75W制限で11700K相当にダウンしたという形です。そしてシングルコアは12600Kの性能をキープ。
性能低下が起こる順番としてはマルチコア性能の低下 → シングルコア性能の低下で、マルチコア性能が消費電力を現状以下に設定するとすぐ低下するのに対し、シングルコア性能は優れた1コアが制御され始めるまで低下しません。
PCの利用法としてマルチコア性能をフルで使用することが少ないならば、ベンチマーク(負荷テスト)で多少性能低下が見られても、使い心地は悪化しないかと思います。主にゲームをする場合などですね。
CPU温度や処理性能に目標がある場合、電力制限のみで実現できなければ、低電圧化やパーツ交換のような他の方法も試すことが必要です。
私の例でいうと低電圧化により電力制限前で110W → 103Wほどの消費電力減をし、処理性能低下なしで2℃ほどの温度減を行えています。
必要なツールを準備
CPUのクロック数・消費電力・温度を確認できるソフト
電力制限自体はBIOSで行うのですが、搭載しているCPUのクロック数・消費電力・温度を確認するためにソフトを使用します。
ここでは2つご紹介しますが、その他のソフトでも構いません。お持ちでなければダウンロード・インストールしてください。
(この記事中ではThrottleStopを使用しています。)
ThrottleStop

ThrottleStopはTechPowerUpが提供しているソフトで、CPUの様々な設定を変更できます。
対応CPUはIntelのみですが、CPUのクロック数・消費電力・温度を確認できるほか、それぞれを制限する設定をした際、いま何が上限に引っかかって制御されているか(サーマルスロットリングなど)を表示してくれます。
ノートPCなどBIOSで電力制限が解除できない場合の設定ツールとしても使用されています。(TPLボタンからPower Limit Controlができる)
記事公開時点(2025年3月2日)では、無料で利用できます。
HWMonitor
HWMonitorはCPUIDが提供しているソフトで、ハードウェアモニタリングソフトとして有名です。
Intel・AMDのCPUに対応しており、CPUの他にファンなどの情報も一覧できるため、静音化の目標があって電力制限をされる際にもおすすめのソフトです。
記事公開時点(2025年3月2日)では、無料で利用できます。(フリー版の商用利用にはライセンスが必要)
CPUに負荷をかけるソフト
最大の消費電力に制限をかける設定をするため、最大の負荷をかけた際に最も設定の効果が表れます。
設定の調整をする際や、動作確認の際に、最大の負荷を手軽にかけられるソフトを使用します。
(この記事中ではCinebench R23を使用しています。)
Cinebench R23・Cinebench 2024

Maxon Cinebenchは定番のCPUベンチマークソフトです。
従来よりCinebench R23がよく使用されていますが、今ダウンロードしやすいのは最新版のCinebench 2024かと思います。
Cinebenchのスコアはネットに多くの情報があり、ご自身のPCのスコアと比較することで処理性能の目安とすることができます。
BIOSで電力制限をする際にも、「このCPUと同程度の性能までなら下がっていいか…」と考える材料として使用可能です。
お持ちでなければダウンロード・インストールしてください。
Cinebench 2024のダウンロードページ(外部サイト)
記事公開時点(2025年3月2日)では、無料で利用できます。
現状の確認
CPUの情報をWebサイトで調べる
搭載しているCPUの、最大クロック数・消費電力(参考値)・最大動作温度を確認します。
最大クロック数は処理性能を決めている項目、消費電力(参考値)はメーカーが定格などとして用意している項目で、最大動作温度はCPU保護のための項目です。
電力制限の結果がクロック数や動作温度の低下で表れるほか、いま電力以外に制限がかかっているかどうか判断するためにも、各項目を一度チェックしておきます。


下記のような項目をIntel・AMDの公式サイトで調べてください。
CPUの型番がわからないときは、先程準備したソフトや、タスクマネージャーの「パフォーマンス」画面で見ることができます。
[Intel]
- ターボ・ブースト利用時の最大周波数
- Performance-core最大ターボ・フリークエンシー
- Efficient-core のターボ・ブースト利用時の最大フリークエンシー
- プロセッサーのベースパワー
- 最大ターボパワー
- 最大動作温度
[AMD]
- 最大ブースト クロック
- デフォルト TDP(デフォルトTDPの1.4倍付近にCPU全体の電力制限値PPTがある形です)
- 最大動作温度
ベンチマークで現状の最大消費電力と処理性能を見る
インストールしたThrottleStop・Cinebench R23を起動します。
Cinebench R23のCPU(Multi Core)、CPU(Single Core)をスタートし、ThrottleStopでクロック数・消費電力・動作温度をチェックしましょう。
この時点でCinebenchのスコアがネット情報とかけ離れている場合、すでにクロック数・消費電力・動作温度に関する制限がかかっている場合があります。
電力制限のみで思った結果が出ない場合、クロック数・動作温度での制限変更も検討してください。
BIOSでの電力制限
BIOSにアクセスする方法
電源ボタンを押してすぐ、BIOSが開くまで特定のキーを連打します。(1秒間に3回ほどがおすすめ)
キーは、メーカー等によって異なるのですが、よく使われるのはF2・Deleteキーで、次いでF1・F10・F12・Escキーでしょうか。
起動時、ロゴが表示される画面で確認できることもあります。
が、確認できなければPCメーカーのマニュアルなどを参照して確認することとなり面倒です。F1~F12・Delete・Escキーを試してから調べましょう。
Fがついたファンクションキーは、ノートパソコンをご使用の方ならFnキーを押しながら入力しなければならない場合があります。
CPU電力制限設定の場所
変更するのは「CPUパッケージ全体の最大電力」を制限する箇所です。
IntelはB760シリーズ、AMDはB650シリーズのマザーボードについて、搭載BIOSのマニュアルを確認しました。
実際は製品によって表示が異なるかと思いますが、設定画面を探す参考にしてください。
Intel CPU
記事掲載時点での設定項目はLong Duration Power LimitとShort Duration Power Limitなどです。
前者がPower Limit 1(PL1)、後者がPower Limit 2(PL2)とも呼ばれています。
- [ASRock]
Advanced Modeへ移動 → OC Tweaker → CPU Configuration → Long Duration Power Limit・Short Duration Power Limit
- [MSI]
Advanced Modeへ移動 → OC → Advanced CPU Configuration → Long Duration Power Limit・Short Duration Power Limit
- [ASUS]
Advanced Modeへ移動 → Ai Tweaker → Internal CPU Power Management → Long Duration Package Power Limit・Short Duration Package Power Limit
- [GIGABYTE]
Advanced Modeへ移動 → Tweaker → Advanced CPU Settings → Turbo Power Limits(AutoからEnabledへ) → Power Limit TDP
AMD Ryzen CPU
AMDはPPT(CPUパッケージ全体の最大電力制限)の設定をするのですが、見たところAMD CBSからでも、AMD Overclockingからでも設定できそうです。
下記にはマニュアルで確認できたところまでを記載しています。
- [ASRock]
Advanced Modeへ移動 → Advanced → AMD CBS → SMU Common Options → PPT Control(AutoからManualへ)→ 値を入力
- [MSI]
Advanced Modeへ移動 → OC Overclocking settings → Advanced CPU Configuration → AMD Overclocking → PBO Limits(AutoからManualへ) → PPT Limit
- [ASUS]
Advanced modeへ移動 → Advanced → AMD Overclocking → AMD Overclocking → Precision Boost Overdrive → PBO Limits(AutoからManualへ) → PPT Limit
- [GIGABYTE]
Advanced Modeへ移動 → Settings → AMD CBSやAMD Overclocking
制限値の設定
ここからは、制限値設定と動作確認を繰り返すことになります。
イメージとしてはBIOSで制限値の設定 → Cinebenchで動作確認 → BIOSで制限値の調整→ Cinebenchで動作確認 → BIOSで制限値の調整→ …という感じです。
最初の制限値設定はプロセッサーのベースパワー・デフォルト TDPを使用してください。
最終的な調整の目安についてはいくつかパターンが考えられますので、ご自分の納得のいくタイミングで終わらせてください。
温度を目安に調整
高負荷時の理想温度を考える → Cinebench実行時に理想温度が出るように電力制限
処理性能を目安に調整
他CPUのCinebenchスコアを参照し、必要なマルチコア性能を考える → Cinebench実行時に同程度のスコアが出るように電力制限
静音性を目安に調整
高負荷時の理想温度・理想ファン回転数を考える → 理想温度のとき理想ファン回転数が出るようにファン設定 → Cinebench実行時に理想温度が出るように電力制限
電力制限後の動作確認
調整が終了した段階で設定作業を終わっても差し支えないのですが、動作や温度が不安な方はCinebenchで連続の負荷テストをしましょう。
Minimum Test Duration の項目で 10minutesや 30minutesを選択後、CPU(Multi Core)をスタートして、完走できればOKです。
以下は余談となります。
その他の電力低下設定
CPUの低電圧化
低電圧化はCPUが駆動する電圧を下げることです。電圧を下げると消費電力が低下し、今回の電力制限のように温度低下が見込めます。
電子部品が安定動作するための余裕を削るため、PCの動作が不安定になる可能性は思いっきりあるような設定です。
一方、過剰な電圧を削るだけならPCの安定動作に貢献し性能低下もない、むしろCPUに優しいので「すごく効果的だけどやりすぎ注意」の項目といえます。
こちらもBIOSでの設定が可能です。
ソフトウェアを使った電力制限は?
個人的にはおすすめしない
今回紹介したBIOSでの電力制限設定以外にも、Intel XTUや、AMD Ryzen Masterを使用して電力制限する方法があります。
しかし、下記のような使いづらさを感じており、個人的にはBIOSでの設定をおすすめしています。
- 対応CPUが限られる
- OSのアップデートやクリーンインストールのたびリセット
- 不具合の原因がソフトかハードかわかりづらい
- 他の設定ソフトとの競合関係を調べるのが苦痛
電源オプション:プロセッサの電源管理は?
消費電力を制限する項目ではないかも
特にノートPCなどBIOSを操作できないPCで、Windowsの電源オプションから、プロセッサの電源管理を行う方法が知られています。

実際に私のPCで100%から10%刻みのテストをしたところ、最大のプロセッサの状態を100% → 10%に下げても消費電力は103W → 93Wまでしか下がりませんでした。
一方Cinebenchのスコアはマルチコアが17015pts → 14052ptsとなる程度で、これは電力制限でいうと103W → 65Wほどの設定をした程度の下がり様です。じゃあ電力制限したいですね…

詳しく見ると明確に下がっていたのはE-Coreのクロック数で、3400MHz → 400MHzを観測。電力制限で設定した際はP-Coreのクロック数も同時に下がるのですが、プロセッサの電源管理にはそれが見られませんでした。
CPUによって挙動が違う可能性もありますが、選べるならば電力制限を行った方が、温度管理がしやすいと思います。
静音化で快適なPCライフを!
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